地盤災害ゼロ
安全・安心を支えるための社会技術
東日本大震災のように巨大地震で地表面に強い地震動が励起されると,地表付近で構造物とともに生活する私たちは多大な影響を受けます。私たちの生命と財産を地震動から守るためには,構造物自身,それを支持する地盤,また構造物周辺の地盤や斜面がそれぞれ強震動に耐えうるものでなくてはなりません。私たちの研究はこのような観点からの地盤防災に関する基礎的・応用的な研究を基軸にしています。
地盤現象の難しさ
砂の液状化と粘土の軟化
地震時の地盤災害の多くは土の材料特性の急変によると言ってよい。例えば,地下水位の高い地域でゆるい砂地盤が強震動を受けると「液状化現象」を生ずる。これは土粒子群が再配置によって密実化(体積収縮)しようとするのを間隙水が妨げ,土粒子に浮力をもたらすために発生する流動化現象である。一方,さらに粒径の細かな粘性土になると,土が有していた結合力(粘着力)が強震動で損傷・消失することで,やはり急速な軟化現象が発生することがある。
流動化した地盤の結末
いずれの場合においても,地震前に安定を保っていた地盤は突然安定性を失い,地上・地下の構造物はその比重に応じて傾倒・沈下・浮上することになり,傾斜した地盤(斜面)は崩落して崖下に深刻な被害をもたらす。東日本大震災においても火山灰質粘性土の流動化と滑動崩落によって,多くの人々が犠牲となった。
私たちの研究の特徴
現地で何が起こっているのか
私たちは,災害あるごとにその被害機構を解明すべく率先して緊急現地調査を敢行し,それらにより培った災害事象に関する経験をもとに現象予測のための基礎的研究を行ってきた。災害の発生機構は素因(もともと災害を引き起こしやすい性質)と誘因(災害の直接的な引き金となった原因)とに分けて考えることができる。個々の災害事象の因果関係を,現地観察の事実とそれを補完する調査・試験等に基づいて,詳細に分析することが最も重要である。
正しいメカニズムの理解と防災
地盤災害の防止と言ってもその機構と態様は様々であるが,共通して言えることは,適切な力学的根拠に基づいた対策工の実施が重要である,ということである。私たちは,地盤の挙動を支配する土の力学特性を知り,それを理論的に整合のとれた手法に従って数理モデル化し,想定する外力条件の下での挙動を予測するための具体的なスキームとして,適切な土の弾塑性構成則とそれを実装した多様な有限要素解析コードを開発してきた。これらは,学術的意義はもとより,防災行政施策の最前線で活用しうる重要な研究成果である。
実用性を重視
工学分野で広く通用してきた通常の有限要素手続の多くは,土の力学特性の余りの複雑さによって困難に行き当たる場合が多かった。すなわち,同質の土であっても一般に拘束圧(等方応力レベル)や密度に応じて剛性(弾性係数など)や強度を大きく変化させ,極端な載荷履歴依存性,時には間隙水圧上昇による液状化,堆積由来の固結構造の損傷による軟化・流動化,潜在的亀裂による剛性低下と脆性破壊,せん断破壊領域の局所化と曲面状進行など,土独特の不可思議な力学現象が顕在化する。
私たちの提唱する数値解析手法の多くにおいては,これらのうち,対象とする災害事象の予測に不可欠な要因だけを抽出し,不要な詳細さを排除する簡易なモデリングを採用する。このような現実的な戦略は,限られた工期や情報下で緊急対策を講じなくてはならない現場の防災ニーズと合致するものである。
時代の要請および将来性
技術革新と研究の発展
研究動機の背景には時代(社会)の要請がある。これまで世界各国で取り組まれてきた様々な土のモデル化の試みの研究をもとに,これを90年代以降の大地震頻発期のわが国における地盤災害の諸課題を解決するための数理モデルの確立に発展させてきた。これらと時期を同じくして,半導体技術の発展に伴う計算機の高速化・大容量化の波が,地盤災害の数値シミュレーション技術の精度・詳細度を飛躍的に向上させ,微視的に複雑な機構を持った土の力学特性を反映した巨視的な地盤の挙動のシミュレーションの可能性が拓かれた。それらを“形あるもの”に結実させるための試行錯誤こそが,私たちがこれまでに取り組んできた一連の研究活動の本質である。
私たちの研究に求められること
頻発する巨大地震,地球規模の気候変動等に翻弄されるわが国はもとより,世界各国において,自然災害の脅威から生命と財産を守るための技術開発に関心が集まっている。特に,限られた生活可能圏に犇めく人口を地盤変動あるいは土砂災害から守るのは各国政府(とりわけ発展途上国)にとって喫緊の課題である。
わが国においても,1995年兵庫県南部地震以降は直下型・海溝型を含めて大地震が頻発するようになり,地震活動の活性期に入ったと考えられている。もとより大量の降雨や融雪,比較的新しい地層に覆われているわが国の国土は,ひとたび強震動を受けると深刻な地盤災害を生じる危険性が極めて高い。こうした潜在的な自然災害リスクを科学技術によって低減させること,それが私たちの研究成果が有する将来の重要な可能性の一つである。

